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今と昔でこんなに違う! 黎明期と比べたらWi-Fiの成長がすごかった

人とWi-Fiが徐々に進化しながら歩く絵

23年前と比べて、あなたはどう変わりましたか? 私はだいぶ体重が増えました。もしかするとまだ生まれてなかった読者の方もいるでしょうか。ミレニアムも今や昔、その間にさまざま技術が進歩し、驚くほど世の中は便利になりました。Wi-Fiもまた、目覚ましい進歩を遂げた技術のひとつです。身近にありすぎて気が付きにくいかもしれませんが、当時とは比べ物にならないほど便利になっています。

そこで、前回に引き続きWi-Fi23周年お祝いの気持ちを込めて、その歴史と成長を電波に詳しい内神田博士と一緒に改めて見ていこうと思います。

関連記事:「Wi-Fi」が生まれて20+3年。Wi-Fiの誕生を全力で祝ってみた。
https://www.ntt-bp.net/column/blog/2022/10/post-97.html

Wi-Fiが誕生したのは1999年?実はそれよりもっと前?

いまのところ、Wi-Fiは無線LANで唯一の世界標準規格です。そのため「Wi-Fi=無線LAN」と感じてしまうかもしれません。しかし、歴史を紐解くと、これはちょっと違うんです。

たとえば、Wi-Fi普及に関する業界団体である「Wi-Fi alliance」は、Wi-Fiの誕生を1999年としています。しかしそれはあくまで名前の話で「Wi-Fi」という名前が登場する前から無線LANは存在していました。実際、1997年には、無線LANの標準化を目的とした団体「IEEE802委員会」によって無線LAN規格「IEEE802.11」が策定されています。これは現在も私たちが使っている無線LAN規格シリーズの元祖ですから、この1997年を無線LANの誕生年とする見方もできるでしょう。
ただ、この無線LAN規格もまた、これまで多くの会社が、それぞれ独自に開発・発表していた方式を統合したものに過ぎません。1990年代初めには無線LAN自体は実用化されています。たとえば1993年に策定された19GHz帯を使った規格「RCR STD 34-A」もその一つです。小さめのトースターくらいの大きさがありますが、これでも子機なんです。同じ大きさの親機とセットで使います。ちょっとイメージが付きにくいという方は、ぜひNTT技術史料館(NTT武蔵野研究開発センタ内)に行ってみて下さいね。古い無線LAN機器などもたくさん見ることができますよ。

WL100という過去の無線機器の実物

19GHz帯無線LANの子機
取扱いには無線局免許が必要


Wi-Fiという名前が誕生した1999年、この年は「IEEE802.11b」と「IEEE802.11a」が登場した年でもあります。それぞれ2.4GHz帯、5GHz帯を使用する無線LANの規格ですが、特に「IEEE802.11b」は使いやすく、職場に、家庭に、Wi-Fiが広く普及するきっかけになりました。そのため「最初の汎用無線LAN」という呼ばれ方をすることもあります。そこで今回は主に1999年頃と現在でWi-Fiの規格やスペックを比べてみたいと思います。
2022年11月現在、最新の規格はIEEE802.11ax「Wi-Fi 6」と呼ばれています。日本では2022年9月にその拡張版である「Wi-Fi 6E」も利用できるようになりましたね。一方、1999年のIEEE802.11bと比較して、どれくらい変わっているでしょうか。

「Wi-Fi以外」の無線LAN規格

今となっては無線LANといえばWi-Fiじゃが、かつては様々な規格が覇権をめぐって競い合っていたんじゃ。

かつてWi-Fiのライバルだった規格のひとつが、HiSWANa(ハイスワンエー)です。NTTはAWA(Advanced Wireless Access)という機器をHiSWANaとして規格にしました。欧州標準のHyperLAN2と共通仕様で期待されていましたが、当時5GHz帯はまだ世界共通バンドではありませんでした。また、2.4GHz帯のWi-Fi(IEEE802.11b)に比べて価格も高価だったため、Wi-Fiの勢いに押されることとなります。しかし、かつてこれらの規格が互いに切磋琢磨しながら技術の高度化を進めたことが、今日の無線LANの快適な通信を支えています。

AWAという過去の無線機器

AWAの姿もNTT技術史料館で見ることができますよ

通信速度編 ~やっぱり速くなっている?~

1999年から2022年にかけて、通信速度の変化を見てみましょう。

接続できなかったときの画面サンプル

1999年に登場した「IEEE802.11b」の最大通信速度は11Mbpsでした。理論値なので、実測とは異なりますが、現在であっても高品質な動画などでもなければ、それなりにインターネットが楽しめる速度です。ISDNが主流で、有線でも64Kbpsも出れば十分、という時代でしたので、満足できるスペックであったと言えるのではないでしょうか。

そして現在、最新規格Wi-Fi 6Eの速度は9.6Gbpsです。目を疑うくらい速くなっていますね。もちろんこちらも理論値ですから、いつでもこの速度が出るわけではありませんが、目覚ましい進歩です。これは1秒間に1200MB、つまり約1.2GBのデータ送受信ができる計算です。

接続できなかったときの画面サンプル

23年の年月を経て、Wi-Fiはめちゃくちゃ速くなっていました。動画でのコミュニケーション機会が増え、映像も4Kや8Kと、データサイズもまた大きくなってきた昨今。Wi-Fiの変化は、時代のニーズを色濃く反映したものになっています。

どうやってこんなに速くなったの?

速さの秘密は「Wi-Fi 4」の登場にある。キーワードは「チャネルボンディング」と「MIMO」じゃ。

Wi-Fiが飛躍的にスピードアップした画期的な2つの仕組みは「Wi-Fi 4」、すなわちIEEE802.11nで登場しました。
1つ目が「チャネルボンディング」。これは複数の周波数帯(チャネル)をまとめることにより広い帯域を作りだすことで、大容量の通信を可能にする技術です。Wi-Fi 4では20MHzを2つ束ねた40MHzの幅を一挙に使えるようになり、伝送効率が大幅にアップしました。
もう1つが「MIMO」です。これは1台の機器に複数のアンテナを持たせ、同時に使うことで通信を高速化する技術です。
その後登場した、Wi-Fi 5(IEEE802.11ac)やWi-Fi 6(IEEE802.11ax)はこれらの仕組みを進化させ、束ねられるチャネル幅やアンテナ数を増やすことで更なる高速化をはたしています。

値段編 ~Wi-Fi一式、いくらで買える?~

ルーターだけで約60,000円。しかもこれだけでは使えない?

「Wi-Fiのすべて 無線LAN白書2018(小林忠男監修 無線LANビジネス推進連絡会編 2017年リックテレコム刊行)」という本に、参考になるデータがあります。1999年に販売されていた無線LANアクセスポイント「WLA-T1」です。こちらはIEEE 802.11に準拠していて、当時に無線LANを使おうとした場合の標準的な機器にあたります。この価格が59,800円ですから、かなり高価ですね。しかも、これだけでは使えません。端末側に挿し込んで使う「無線LANカード」も買う必要があり、これが一枚29,800円。1セット買うだけで89,600円もの導入費用が必要となってしまいます。たとえ便利でも、とても気軽には買えない金額です。

最新のWi-Fi機器は高性能、安価

現行のWi-Fi 6対応ルーターの値段はどうでしょうか。Wi-Fiの技術革新に伴い、性能もうんと良いものになっています。でも、お高いんでしょう......? 先ほどの合計89,600円以下の商品はあるのか、価格比較サイトで調べて比べて見ると......

接続できなかったときの画面サンプル

......ぐっとお求めやすくなっていますね! 様々な販売サイトを比べて見ましたが、ひとつのルーターが特別安いというわけではなく、5,000円前後の製品がいくつもある印象でした。

逆に、家庭用では高い製品でも40,000円程でした。また、今となっては「無線LANカード」のような受信機は必要ありません。ほとんどの場合、スマホやパソコン等の端末がその機能をもともと持っているからです。合計額を考えると、Wi-Fi導入のため費用は大幅に安くなっている、と言えそうです。

こんなに普及したのはiPhoneがきっかけ?

Wi-Fi普及の数ある要因のひとつは「Apple製品」と言われておる。特に2007年に登場した「iPhone」の流行による影響は大きかったようじゃな。

実はこのWi-Fiが一般に広がるのは「ある機器へ搭載されたこと」が大きなきっかけでした。
ひとつは「AirMac」、そしてもう1つはご存じ「iPhone」です。これによって大量生産のラインに乗った受信機は小型化が進み、アクセスポイントの設置数も爆発的に増加しました。また、これまで「有線のスイッチングハブを無線化してケーブルをなくす」という目的だったWi-Fiが、「屋内外に移動して使う端末」向けとして使われ始めたことも大きな変化でした。iPhoneの流行はWi-Fiにとって歴史的なターニングポイントと言えるかもしれません。

普及編 ~Wi-Fi機器って増えている?~

無線LANの認知や普及を目指す団体、無線LANビジネス推進連絡会のメールマガジンでは、次のようなデータが公表されています。

2017年にはWi-Fiの通信チップ(LSI)の出荷数が36億個に達し、2015年から19年までの5年間の累計出荷数は180億個に達すると予測されています。2021年の出荷数は40億になると予想されます。2020年時点で使われるIoTデバイスが500億個だとすると、その相当部分をWi-Fi搭載機器が占めると見てよいでしょう。.........

2020年までのWi-Fi出荷数

2020年までのWi-Fi出荷数(一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会調べ)

出典元:一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会【Wi-Biz(ワイビズ)】https://www.wlan-business.org/archives/23300

先にも言及していますが、1999年以前のWi-Fi機器は非常に高価でした。また「IEEE80211a/b」の普及までは通信速度も遅かったため、1999年時点でWi-Fiは、企業にしても家庭にしても、限られたごく一部の人だけのものだったのです。
今となっては、Wi-Fiが使えないスマートフォンを探すほうが難しいですよね。2021年だけで、ノートPCの出荷台数は5500万台、スマートフォンの出荷台数に至っては、13億台を超えているそうです。とんでもない数です。今では更に、スマートスピーカー、家電、カーナビなどあらゆるものにWi-Fiが搭載されており、2026年までにWi-Fiの累計出荷台数は130億台を超えるとの予測もあるようです。Wi-Fiに一切かかわらずに生きていく方が難しいくらいですね。

新機能編 ~かゆい所を見つけたら次の世代で手が届く~

Wi-Fiの進化は数字上のスペックアップに留まりません。使い手の「もっとこうだったらなぁ」を実現すべく、規格が変わるたびにさまざまな機能を実装してきました。皆さんは今のWi-Fiができて、以前はできなかったこと、思い当たるものはありますか? ここでは、主要なものを見てみましょう。

こんなにある! Wi-Fiに追加された機能

・TWT技術でバッテリ―長持ち

以前のWi-Fiでは、すべての端末に対して同じスリープ時間の設定しかできませんでした。TWT(Target Wake Time)は端末毎にスリープ時間を制御できるので、センサーなど、例えば数時間に一回などでしか送信しない端末を著しく省電力化できるようになったのです。

・WPA3対応でより安全に

Wi-Fiの規格と同じように、セキュリティにも規格があります。Wi-Fi 6では最新のWPA3というセキュリティ規格にも対応。WPA2では対策しきれなかった辞書攻撃や総当たり攻撃を防ぐことができます。KRACKsと呼ばれる認証の脆弱性にも対応しました。これにより、一層安心、安全に通信できるようになりました。

・OFDMAでスムーズな通信が可能

OFDMAという技術も、以前のWi-Fiには無かったものです。OFDMAは、機器ごとに別の周波数を割り当てることで、たった1度の通信で複数の機器にまとめてデータを送ることができる技術です。これによって、今まであった順番待ちの機会が減り、スムーズな通信ができるようになっています。

・MIMO/MU-MIMOによる同時通信でさらに高速に

先述のMIMOという技術で、複数の無線アンテナを同時に使って通信できるようになりました。近年ではさらに進化したMU-MIMOという技術を使い、1つの送信機から複数の無線アンテナを使って、複数の受信機に向けて同時に通信することも可能に。さらに無駄なく無線リソースを活用できるようになり、安定した速度を出すことができるようになりました。

さまざまな機能を装備したWi-Fiのキャラクター

望まれた通りに道を切り開いてきたWi-Fi

このように、Wi-Fiは1999年の頃とは比べ物にならないほど便利に、高性能に変わりました。細かく見ていけば、ここに紹介しきれなかった変化もたくさんあります。20数年、この長いような短いようなこの期間にWi-Fiがここまで変わったのは、やはり人々がそう望んだからです。人が求めたWi-Fiの姿があり、技術者たちの凄まじい熱量によって、より新しい、高い次元のWi-Fiが生まれ続けたのだと思います。

2024年頃には、Wi-Fi7が登場する見通しです。これまでの変化を振り返りながら、Wi-Fi10の飛び交う未来が一体どんなものなのか想像するのも、楽しいかもしれません。

参考文献:Wi-Fiのすべて 無線LAN白書2018小林忠男監修 無線LANビジネス推進連絡会編 2017年リックテレコム刊行

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