広域Wi-Fiを可能にする無線中継方式とは。選定ポイントを解説

ワイヤレステクノロジー部新技術担当

配線レスが求められる現場が増えている

施設構造やエリア化する面積、安全性や美観基準など有線LANの延伸には"現場ごとの事情"で実現が難しいケースが少なくありません。また、高所や長距離の配線工事が必要な場合、工事に費用と時間もかかります。

こうした状況では「配線レスで通信経路を確保する手段」として、無線による中継が非常に有効です。
本記事では、無線中継の基本的な考え方から実装方法、実際の検証結果、設計・運用時の注意点まで解説していきます。

無線中継が有効な主なケース

  • 工事制約:天井裏や配管の余裕がない、構造的にケーブルを通せない
  • 距離が長い:100m超になるなど、配線距離が長い
  • 景観や安全性:美観や安全性の観点で、露出配線が許されない
  • レイアウト変更への対応:工場のライン変更など、レイアウト変更への柔軟な対応が求められる
  • 短期イベント:数日~数週間だけの利用で、大規模な有線工事が現実的でない
  • パブリック4G/5Gが使えない・使いづらい:電波の入りが不安定、端末数が多く費用がかかる

無線中継の2大方式:「ミリ波」と「Wi-Fi中継」

LAN配線が難しい環境では、装置同士を無線でつなぐ「無線中継」が有効な手段になります。
光回線が到達しているポイントから有線で延ばせる範囲までは従来通り有線で接続し、そこから先のエリアを無線で中継することで、追加の配線工事を最小限に抑えながら通信エリアを広げることができます。

当社では、現場の特性や帯域要件に応じて、主に次の2つの方式を採用しています。いずれも免許不要で運用できます。

  • ミリ波(60GHz帯)による無線リンク
  • Wi-Fi中継(マルチホップ)による中継

どちらの方式も、適切に設計して活用すれば、十分な通信容量を確保しながら広いエリアをカバーできます。ただし、使用する周波数帯や中継方式が異なるため、それぞれに向いているシーンには違いがあります。

無線中継 有線(光ファイバー・LAN配線)によるLAN構築が困難なときに

ミリ波(60GHz帯)

見通しが取れる場所で強力に使える、高速無線リンク

ミリ波による無線中継は、見通しが確保できる地点同士に "有線の代替となる高速無線リンクを張る"ようなイメージで利用します。 当社では60GHz 帯を利用する Panasonic ecdiを採用しています。
中継したい地点にそれぞれecdiを設置し、中継を行います。
親機1台、子機1台の構成だけでなく、子機を複数台設置したり、多段構成にすることも可能です。

ecdiによる60GHz帯の中継イメージ

当社の検証では、ecdi の対向リンクにて、約450mの距離でも−65dBm程度の電波強度を維持して、900Mbps超えの実効スループットを確保できることを確認しました。
環境によっては性能が低下する場合もありますが、アンテナの設置高さを調整することで改善できるケースが多くあります。

距離とスループットの検証結果

無線中継(ミリ波):NTTBP

見通しは必須。気候条件にも影響

ミリ波による無線中継は高い周波数帯のため、直進性が高く障害物の影響を顕著にうけるため見通しが必須の条件となります。
また、降雨・降雪による減衰の影響も受けやすいため、気象条件や設置環境を踏まえた設計が不可欠です。

Wi-Fi中継

電源だけで柔軟に広げられ、中継とサービス提供を両立

当社では、マルチホップ構成に強い PicoCELA製機器を用いた Wi-Fi中継を採用しています。
複数のアクセスポイントを無線でつなぎ、電源さえ確保できれば有線なしで多段展開できるのが大きな利点です。アクセスポイント同⼠が無線で⾃律的に接続し屋内の複雑なレイアウトや障害物の多い環境でも柔軟に経路を組めるため、工場・倉庫・商業施設、短期イベントなど幅広いシーンで活躍します。

また、各アクセスポイントは中継専用としても、利用者端末を収容するサービスAPとしても利用可能で、状況に応じて役割を兼ねられる点も特徴です。

PicoCELA製機器を利用したWi-Fi中継のイメージ図

PicoCELA製機器によるメッシュWi-Fiのイメージ図

無線中継(Wi-Fiメッシュ):NTTBP

干渉を避ける電波マネジメントもあわせて実施を

柔軟な構築が可能で便利な一方で、中継にも同じ Wi-Fi 帯域を使用するため、中継電波と端末向け電波が干渉しない工夫が重要になります。
例えば、
・指向性アンテナを用いて電波の向きを分離する
・中継用チャネルと端末向けチャネルを離隔する
といった設計を行うことで、安定したスループットを保ちやすくなります。

無線中継選定のポイント

無線中継は広域カバーに非常に有効な手段ではありますが、有線の安定性やパブリック4G/5G利用の簡便さを上回る手段というわけではありません。それぞれの特長をふまえて選定することが大切です。
例えば、以下のような判断フローで採用を検討するとよいでしょう。

無線中継の判断フロー図

有線と無線中継の比較図

「ローカル5G」という選択肢も

広域をカバーする無線通信としては、ミリ波や Wi-Fi中継に加えて、ローカル5G をバックホールとして活用する方法も注目されています。

運用には免許が必要ですが、その分、専用帯域を利用できるため干渉に悩まされることなく、安定した運用が可能です。Wi-Fiと比べて高出力で運用できる点も大きなメリットで、少ないアンテナ設置で広いエリアをカバーすることができます。セキュリティ面でも非常に優れており高度な業務用ネットワークには最適な選択肢の一つと言えるでしょう。

ローカル5Gで中継ポイントまで伝送し、ラストワンマイルを Wi-Fiで提供する構成も有効です。広い敷地や建屋をまたぐようなケースでも、エリア設計の柔軟性が高く、端末側の自由度も確保しやすくなります。
近年は、比較的手頃なパッケージプランや、サブスク型で初期費用を抑えて試せるサービスも登場しており、導入のハードルは非常に下がっています。

ローカル5Gをかんたんお試し可能最短1カ月190万円(税抜)~かんたん5G

まとめ

Wi-Fi そのものは非常に優れた無線規格であり、多くの端末が標準で対応している点は大きな強みです。一方で、電波の特性上、一般的なカバー範囲は数十メートル程度に限られるため、従来広い敷地や入り組んだ建物ではエリア設計が難しくなることがありました。
しかし、有線が引きにくい場所やモバイル通信が使いづらい環境でも、無線中継を組み合わせることでカバーできる範囲や用途が大きく広がります。
ミリ波・Wi-Fi中継・ローカル5G など、それぞれの方式には得意・不得意があり、現場の環境によって最適な構成は大きく変わります。
構造、距離、干渉、利用用途などの条件を踏まえた設計が必要なため、最適な無線構成を検討する際は、ぜひご相談ください。

無線中継:NTTBP

お気軽にご相談ください

業務DXや通信環境でお困りのことがありましたら、いつでもNTTBPがお手伝いします。